『倫敦千夜一夜物語』2巻感想と覚え書き

最近時間を持て余していたから、集英社オレンジ文庫から刊行されている『倫敦千夜一夜物語』の1巻と2巻を読んだ。1巻を読んだのが確か去年の秋、2巻を読んだのが今日。半年ほどの空きがある。正直、もう1巻の内容はほとんど覚えていない。

ルフレッド(個人的に嫌い)とサラ、そしてヴィクターの3人がだいたい物語の中核を担い、そこから人脈が派生したり、アルフレッドとサラの兄妹が経営する「千夜一夜」に来る客が事件を持ち込んできたりする。いわゆる探偵モノである。以下、本作の特徴を挙げる。

・英文学への言及が多い。
本作を読んでいくと猿でも分かる。この作品、衒学趣味とまでは行かずとも、かなり英米文学への言及がされる。そのされ方も様々で、他愛ない雑談の中で触れられたり、或いは作中で生じた事件のアナロジー及びそれを用いた推理を躍動させるために使われたりもする(スティーヴンスン『新アラビア夜話』が特に)。アナロジーを用いた推理と聞いてピンと来なければ、小栗虫太郎が生み出した法水麟太郎の超人的推理を思い出していただきたい。或いは裁判における判例を用いた類比的推論でも良い。
恥ずかしながら私は英米文学に疎いので、本作に挙げられた作品を全て理解することは出来なかった。が、上述のアンデルセンやスティーヴンスン、ポーなどの著名な作家の代表的作品も述べられているため、読書の手引きとしては使えると思う。

・アルフレッドがもはや偶像
本作の主人公とも言えるアルフレッド。眉目秀麗で博学無比、いつも冷静で唯一の肉親とも言える妹を異常に愛し、そして本人は暗い過去を背負い、ケリをつけるため日々虎視眈々と過ごしている……。これだけ聞いても、オタクが考えそうな完璧超人と言える。そして探偵役も彼なのだが、いつも完璧な推理力で事件を解決し、その中途で危険に晒されようが、いつも落ち着きを失わず、最後に必ず事件に幕を下ろすのは彼だ。可愛い後輩であるヴィクターも、彼の手の上で踊らされるマリオネットに過ぎない。まるで作者がピグマリオリズムに耽溺しているようだ。

そしてアルフレッドこそが、私にとって一番キツい存在なのである。

まず、妹への愛が異常。ヴィクターがサラを褒めても、お前にはやらないだの手を出したらただじゃおかないだのと脅迫めいた言動を惜しまない。

キッツウゥゥゥゥウウウゥウゥゥゥゥ!!!!!!

妹以外肉親を持たないのだから、妹が何よりも大事なのは分かるが、それでもヴィクターがちょっとサラに言及する度頭沸いてるんじゃないかと思える言葉が口から出てくる。旧知の友相手ですらこれである。
しかも、傲慢にもヴィクターを忠犬に喩え始める。
キツい。少なくとも私は犬に喩えられていい気持ちはしない。それではまるで、尊厳をけなされているようで、たまらない。それでもアルフレッドはヴィクターを忠犬扱いし、シートン動物記にも出てくる(?)ビンゴに喩える。それもこれも彼らがファグ(主従関係のようなもの?)だったからだ。だからヴィクターは逆らえない。
しかし、それだけでは「アルフレッドって言うほどキツくなくね?」と言われるかもしれない。では何故アルフレッドがキツすぎるかと言うと、これを言うともはや作者への苦情にもとられかねないが、ヴィクターがものすごくイイヤツだからだ。
まず、兄妹への接し方が紳士そのもの。嫌味なところが一つもない。英国の半七みたいだなあと、思ったものだ。それでいて兄妹へ協力を惜しまず、彼らの過去を知っていてなお、親愛の情尽きるところを知らない。まあ、サラへの恋心とアルフレッドへの好意が半々なのだが。そして挙句の果てには、自らの命を顧みずに、サラを庇ってライフルに撃たれたりもする。泣ける。とても健気な好青年だとしか思えない。

そんな好青年に対して、アルフレッドが上述のからかうような態度を取るから気に食わない。そもそも超人が私は嫌いだからなのかもしれない。が、とにかく、私はアルフレッドが大嫌いだ。早く続編を出していただいて、私のこのイメージを払拭してもらいたいものである。