小栗虫太郎『魔童子』紹介

魔童子 第一篇 暗流を辿って

一、伽羅仙童子の唇

 

と、なんとも摩訶不思議な題名と副題で始まる。この短編小説は、桃源社刊行『小栗虫太郎全作品2 完全犯罪』に収められた、六篇の「新伝奇小説」の一つ。インターネットで検索すると、『完全犯罪』や『白蟻』、『青い鷺』などは時折ブロガーにフィーチャーされているが、この『魔童子』は、どうにもレビューの剔抉に苦心する。

と、いうことで、この一品に興味を覚えたが、どんな内容なのかを知りたい人に僅かでも資するため、筆者は記事を書く。

 

舞台は上野博物館に始まる。「私」と副院長伊能博士が、仏画を鑑賞しているところ、話題は八戸浄海という破戒僧の患者になる。

彼は、不可解な仏の木像を病室に常に安置しており、時折、愛撫すらする。

そうして、その因縁を語りだすと、柯爛上人の描いた奇怪な仏画まで遡った。

「侍童子摩優夷、悉達多に発情を強いるの図」。

仏と発情、なんとも陰惨な組み合わせだ。が、それだけには留まらない。

 

「その一つは、絵を透かしてみると、悉達多の右足に、拇指が一本余計に描かれてあって、即ち第六指が、画面では一枚のトラムプ札で塗りつぶされている。……それから第二のは、摩優夷の右眼に瞳がなく、……筒抜けの孔になっていて、……悉達多の臍がそこから覗いているのだ。そして、最後の三番目が……一枚の布片があって、それには、二行の漢文が認められていた。……○○現○○底 ○○○有○中」

 

以上、三つの謎が仕掛けられているのである。

そうして、作品に出る謎が謎を呼び、殺人、潜入、窃盗の風が吹き荒び、物語は、意外な結末を迎える……。

 

と、こういった筋書き。そうして、伽羅仙童子、浄紫石などの奇想は、いかにも小栗虫太郎らしいところだ。

これは、探偵小説ではあるが、冒険小説的であり、怪奇小説的でもある。後に作者は、人外魔境シリーズを金字塔とする冒険小説へ、その活躍の舞台を移すが、その萌芽が早くも感じられる。

以上、極めて簡略に筋を追った。興味を覚えた方は、是非古本でも求めて、存分に楽しんで頂きたい。